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「保存的治療と外科的治療の切り替えと判断」というテーマのもと、取り上げるのは乳児の吸気性喘鳴を代表する喉頭軟化症です。侵襲の大きさに目が向きがちなテーマですが、聖マリアンナ・モデルが共有している視点と大切にしていることをお話しいただきました。
「少し気道が悪い子」がいちばん難しい
気道管理の判断で最も難しいのは、症状が軽症でも重症でもない中間層です。小町 詩織 医師(新生児科)は、日々の診療実感をこう表現します。
「重症で明らかに手術が必要な子は、判断に迷いません。経過観察でよい子もいます。難しいのは、少し気道が悪くて、少し呼吸に努力を要していて、体重増加もいまひとつ、といった子。どう扱うかでその後の育ちがかなり変わってきます」(小町医師)
一見軽症例でも、哺乳量が伸びず体重増加が停滞すれば、発達・免疫・呼吸筋などすべての成長に影響します。乳児期の子どもにとって呼吸に体力を使い続けることは「静かな消耗」で、ダメージにつながることも少なくありません。だからこそ耳鼻咽喉科・小児外科・新生児科・小児科・麻酔科・NPといった多職種連携の「気道チーム」が集まり、議論すべき対象になります。
「見逃されている症例」がある
小森 学 医師(耳鼻咽喉科)は、座談会で喉頭軟化症を具体例として挙げました。本疾患は「よくある病気だね、経過観察を」と対処される一方、外科的介入が必要だったのに機会を逸してしまう症例が一定数存在するとのこと。同医師は同院に紹介される症例の中にこうしたケースが含まれることを指摘し、以下のように述べます。
「経過を見ているうちに体重増加不良や睡眠時無呼吸が進んで、結局は手術が必要になる子がいます。どの段階で介入していれば違うのか、考えさせられます」(小森医師)
喉頭軟化症は、大半が自然軽快しますが、10〜20%程度は重症化し外科的介入を要するとされます。この「重症化する子」を早期に見分けるには知見が必要です。海賀 千波 医師(小児科)は、外来で最初にこうしたこどもに出会う立場から、そもそも「見逃されうる」疾患であるという認識を、外来レベルで共有していく必要を訴えます。
「喘鳴があるこどもに、経過観察でよいのか、詳しい評価が必要なのか、いつどこにつなぐのか。ここは小児科医の判断が問われる部分です」(海賀医師)
判断の軸は「侵襲度」ではなく「お互いの治療がどこまでできるのか」
外科的治療への切り替え判断で、しばしば議論の中心になるのは「侵襲度」――手術がどれだけ体に負担をかけるか、という点です。しかし聖マリアンナの気道チームは、判断の軸をもう一段別の場所に置いています。大林 樹真 医師(小児外科)は、その視点をこう説明します。
「侵襲度の話は当然ありますが、それより前に、保存的治療で行った場合にどこまで持っていけるのか、外科的治療で介入した場合にどこまでの改善が見込めるのか、それぞれの上限を共通認識として持っておくことが大事だと思っています」(大林医師)
保存的治療の到達点と、外科的治療の到達点。2つをともに把握して初めて「いつ外科に切り替えるべきか」という検討が生きはじめます。例えば喉頭軟化症の保存的治療では、経過を見ながら、体重増加・睡眠・哺乳・呼吸努力の推移をモニタリングします。ここで「保存的治療でも改善が見込めるが、時間がかかる」のか、「保存的治療の延長線上には改善が見えない」のか、判断が分かれます。小森医師は、この際の判断を単独では下さないと言います。
「気道の内視鏡所見だけでは、その子の全身がどうなっているかは分かりません。哺乳の状況、体重増加、呼吸のパターン、家族の生活。全部を並べて、はじめて『いま切り替える』かどうかが議論できます」(小森医師)
こうして事例から見ていくと、気道だけでなく全身管理や生活環境などを踏まえた判断のためにスペシャリストの集うチームが必要という構造が見えてきます。
麻酔科の視点――手術の設計は「切り替えの判断」から始まる
外科的治療への切り替えが決まれば麻酔・術中・術後管理の設計が始まります。ただし坂本 三樹 医師(麻酔科)は、この設計を「手術が決まってから始めるのでは遅い」と話します。
「麻酔科の視点で言うと、手術に入る前の段階から、どう気道を確保するか、どういう合併症が起こりうるか、術後の呼吸管理をどう組み立てるかを一緒に考えておきたい。切り替え判断のカンファレンスに麻酔科が入っているかどうかは、実は術後管理の質にも直結します」(坂本医師)
カンファレンスに入ることで、「この患者は術中どうなりそうか」を先に見立てておける。この見立てがあると、切り替え判断そのものにも「手術を選ぶことで生じるリスクの重さ」を織り込んで議論できます。言い換えれば、切り替え判断の質は手術を執刀する診療科と、麻酔管理を担う診療科が同じテーブルにいるかどうかで変わりえます。
子どもと家族の生活も判断過程に加える
もうひとつ、この切り替え判断で聖マリアンナのチームが重視しているのが、家族と生活背景です。倉光 真登香NP (小児外科診療看護師)は、社会背景を含めた検討の重要性を強調します。
「気道の手術は、本人だけでなく家族の生活を一変させる治療でもあります。退院後どういう体制で在宅を組めるのか、きょうだいがいるのか、家族の支援者はいるのか。医学的に手術が可能でも、退院後の生活が回らなければ、それは判断の材料になります」(倉光NP)
医学的妥当性と、社会的持続可能性。この二つが揃って初めて、「いま手術に切り替える」という判断が現実的になります。そのため、切り替え判断のカンファレンスには、社会背景の情報を持ち込める人が入っていることが重要になります。NPがこの役割を担っている構造は、前回(第2回)述べた「つなぎ役」の必然性ともつながっています。
いつ外科的治療に切り替えるのか
「」――この問いに、聖マリアンナ・モデルは多職種の専門性が集まって初めて成り立つ視点を示しています。判断の軸となるのは、保存的治療と外科的治療、それぞれの到達点の共通認識です。そして到達点を見立てるには、耳鼻咽喉科の内視鏡所見、小児科の全身状態評価、小児外科の術式検討、新生児科の哺乳・呼吸評価、麻酔科の術中・術後リスク見立て、NPの社会背景把握――こうした全てが同じテーブルに揃っている必要があります。さらに言えば、第2回で見てきた「多職種連携が前提であること」「交通整理役の存在」「複数のつなぎ役」といった構造は、こうした具体的な判断の質を支えるためにあります。
次回は、この判断や技術を、次世代の医療者にどう継承していくか――「」をテーマにお届けします。遠隔コンサルの試みも含め、「相談できる相手をつくる」ことの実践知を伺います。






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