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小児重症医療は、そもそも「多診療科型」医療
小児重症医療は、小児科医だけでは診療が完結しません。呼吸管理や感染症の対策など、外科手術、気道確保、鎮静・麻酔、新生児管理――複数の専門性が同時に求められます。小児の重症対応施設として代表的なPICU(小児集中治療室)を例に挙げると、日本集中治療医学会はPICUについて多職種・多診療科チームを求めています。常時連携すべき診療科としては、小児麻酔、小児外科、小児科、小児耳鼻咽喉科などが挙げられています(※)。つまり、小児重症医療における「医師偏在」は小児科医の不足だけでは捉え切れません。そのこどもにとって必要な専門家がどう集まり、どう治療に参画するか?
この「専門性へのアクセス不足・未確立」が、小児重症領域の診療科偏在における構造的課題となります。※
PICUは47都道府県すべてに存在するわけではない
厚生労働省の2026年の検討では、PICUが設置されているのは全国21都道府県とされています。さらに、小児医療圏においては下記のような概況です。小児医療圏の約3分の1では、二次・三次小児救急を担う施設が1施設のみ病院勤務の小児科医について、約半数の病院が常勤2人以下同、小児入院実績のある病院に限っても約半数が常勤医5人未満一方で、小児の重症患者は成人ほど症例数が多くなく、ICUの入院数で比較すると約5%と言えます。例えば人工呼吸を要する重症呼吸不全でPICUを持つ小児救命救急センターを概観すると、年間50例未満の施設が約半数に上ります。
少ない症例で高価な重症対応の医療機器や、体の大きさ別に医療機器のサイズを揃える必要がある施設と専門人材の雇用を維持することは経済的にも非常に困難です。さらに大切なポイントとして、「症例数を多く経験するほど救命率が上がる」というこの領域特有の傾向があります。
「ボリュームアウトカム」と呼ばれており、欧米をはじめとする高度な医療圏では共通の傾向です。地域格差を解消するために各地域へ専門医を配置したくても、症例数が少なければ技術の維持や教育が難しくなります。厚労省は、こうした状況から、高度専門医療を都道府県単位で整備するのではなく、広域搬送や都道府県を越えた連携を含めた医療提供体制が必要との方向性を示しています。症例を集約すれば、患者の移動距離が長くなります。高度な医療機器が必要な小児重症医療では遠隔医療が適合しない領域と言われることもあります。搬送できないとき、搬送中のリスク、搬送後の対応といったアクセスの課題解消が同時に重要となります。
その縮図としての「小児の気道管理」
こうした問題を具体的に考えていくにあたり、本シリーズでは重症小児の気道管理を取り上げます。気管切開は、ひとつの外科手技を指すのではなく、気管切開を行うべきか、いつ行うべきか、外科的治療へ移行するのか、誰が気道を評価するのか、術中の麻酔をどう設計するのか、術後の人工呼吸をどう管理するのか、生活上の課題は、カニューレをいつ外す検討をするのか――様々な観点からの治療と療養の計画と実施が必要です。したがって耳鼻咽喉科、小児科、小児外科、新生児科、小児麻酔、看護・NPなどの判断が連続し、複合的に必要となります。
気管切開は「手術したら終わり」ではない
2023年に報告された国内の全国調査では、202施設を対象に調査し、57施設から回答を得ています。回答施設のうち29施設が過去10年間に小児気管切開を実施しており、直近1年間の実施症例は計196例でした。長期経過では、成人より合併症が多い可能性が示され、気管孔閉鎖に至った症例は約1割にとどまっています。研究者らは、長期管理や気管孔閉鎖について、施設間の共通認識を深める必要性を指摘しています。
気管切開は一時的な処置ではなく、長期の生活や医療提供体制に影響する治療であることが読み取れます。
Surg Res『Long-Term Outcomes After Pediatric Tracheostomy—Candidates for and Timing of Decannulation』https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32563762/そのため、判断の質を見るとき、「手術が成功したか」だけでは十分ではありません。その後の呼吸管理、嚥下、発声、退院、在宅生活まで含め、診療科を越えた長期的な設計が必要になります。
多職種連携は「理念」ではなく、アウトカムに関係する
海外では、小児気管切開患者に対する多職種チームの効果が実際に検証されています。米国の小児専門施設では、気道管理チーム導入後、気管切開前のチーム介入率が14%から93%に増加。家族への教育開始も平均13.7日から1.9日に短縮し、平均在院日数は133日から96日に減少しました。
Investig Otolaryngol『Multidisciplinary Tracheostomy Teams Reduce Emergency Department Utilization in Pediatric Patients: A Retrospective Cohort Study』https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41404636/また別の小児専門施設では、気管切開患者を対象とする多職種AirwayCenter導入後、1歳未満児の気管切開後入院期間中央値が37日から26日に短縮。
気管孔閉鎖の成功割合も、プロトコル遵守下では68%から86%へ改善しています。
ただし少なくとも、「気管切開の成績は一人の術者だけで決まるものではない」という方向性は一貫しています。多職種連携は、理念やスローガンにとどまらず、アウトカムに具体的に関係する要因として観察されているわけです。
偏在地域で本当に不足しているのは「医師」だけなのか
地域医療ではしばしば、「専門医がいない」こと自体が問題として語られます。しかし、すべての地域へ、小児耳鼻咽喉科医、小児外科医、小児集中治療医、小児麻酔科医、新生児科医を配置することは、症例数から見ても、養成期間から見ても、現実的ではありません。厚労省も2026年、小児人口が少ない地域について、小児科以外の医師との連携、非常勤医師の派遣、オンライン診療などを組み合わせる必要性を示しています。静岡県では、静岡県立こども病院が地域の二次救急施設(富士市の夜間救急事業を含む)をオンラインで支援する取り組みも紹介されています。
必要なときに専門家へ相談でき、どの段階で高次施設へ送るか判断でき、専門家同士が役割を分担できる仕組みをつくること。ここに、軸足が移りつつあります。
本シリーズの位置づけと、次回以降の予告
本シリーズで紹介する「聖マリアンナ・モデル」は「診療科偏在時代の専門性をつなぐ、あるモデルの可視化」として位置づけられます。患者が来たとき、誰が誰へ相談し、どのタイミングで共同診療へ切り替えるのか。実践知を、現場の言葉から取り出すことにあります。聖マリアンナ医科大学病院の実践は、小児領域の専門医が十分にそろわない現場で応用可能な役割分担・連携の原型です。次回以降、小児気道管理チーム6名による座談会の内容を、以下の3回に分けてお届けします。第2回【総論】だれが音頭を取ると現場は回るのか第3回【判断のポイント】「いつ」外科的治療にしていくか?――喉頭軟化症からみる判断の実際第4回【育成・成長】



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