6 PROFESSIONALS
現在の体制は「集まった結果」
大林 樹真 医師(小児外科)は、聖マリアンナの現在のチームが偶然性の上に成り立っていることを、率直に指摘します。
「今のチームは、各施設でハイボリューム経験を積んだスペシャリストがたまたま集まって成立しているとも言えます。持続可能な体制に向けては次の世代を育てる仕組み、例えば集約化施設への研修派遣を継続的に回していくなどの取り組みが必要だと思います」(大林医師)
大林医師自身、聖マリアンナ小児外科入局後に静岡県立こども病院へ2年間の国内留学に出て、喉頭マイクロサージャリーを習得しました。その経験があって、帰院後に小森 学 医師(耳鼻咽喉科)と気道手術に本格的に取り組むことができた。こうしたキャリアステップを制度として設計できる施設は国内で多くありません。さらには今、医療者のキャリアプランは医局単位での設計から個人単位へとシフトしつつある傾向もあります。ある施設で積んだ経験が次の施設に持ち越され、活用されていく「継承の設計」を意識的にやる必要性は増しつつあります。
「集約化施設」で経験を積む意味
小児重症領域では、経験の集約化された施設で学ぶことが、育成の核になります。坂本 三樹 医師(麻酔科)は、一般の麻酔科医が小児を「怖い」と感じると言います。またその理由を経験数の少なさに置き、小児病院への派遣による集約的経験の必要性を指摘します。
「麻酔専門医の症例数要件(編集部注:6歳未満25例など)は、一般病院で全て揃えるのが難しい部分もあります。ただ一般病院は、逆にいえば小児から成人まで幅広い年齢層を経験できる場所でもあります」(坂本医師)
小児症例を経験するための他施設派遣と、自院での大学病院ならではの幅広い年代と症例の経験。坂本医師は、この二つを組み合わせた育成計画の設計を目指します。小森 学 医師(耳鼻咽喉科)も、国立成育医療研究センター在籍時の気道管理の学びが、現在のチームリーダーとしての判断の土台になったと振り返ります。
「成育での抜管対応、また慈恵医大時代に気管切開後の脱管困難例を経験したことなども今の臨床に反映されています」(小森医師)
小町 詩織 医師(新生児科)も、鹿児島での留学経験を含め、複数施設で経験を積んできた立場から、この重要性を実感しています。
「NICUを長く見てきたなかで、気道困難の症例に真正面から取り組める体制が院内にあるかどうかで、新生児科の判断が変わると感じます。また、留学は身につけたことを持ち帰って、どう活かすかも含めて大切です」(小町医師)
集約化施設への派遣は、技術を習得するだけでなく持ち帰ったあと自施設での活用まで含めて仕組み化する大切さが、小町医師の話からは伺われます。
「相談できる相手」を、どう作るか
育成は別のテーマと接続します。
「相談できる相手をつくる」――今回の連載を貫くキーワードのひとつです。海賀 千波 医師(小児科)は、これまでに経験した「相談先が見えない」状況を思い出します。
「困った症例も、この場合は誰、この場合は誰、というのがはっきりしていないと動きが止まるんですよね。相談できる相手がいるということ自体が、若手に限らずこの領域において大きな資源だと思います」(海賀医師)
相談できる相手がいる、とはこの症例をこの人に相談してよい、と互いに認識できていること。相談された側が、返せる範囲で答え、返せない部分は正直に伝えられること。この関係性が積み重なって、初めて「相談できるネットワーク」になります。そのネットワークは、意識的に作らないと生まれません。カンファレンス、多職種で入る手術、外来と病棟をまたぐ症例の共同管理――こうした積み重ねが「相談できる相手」を静かに増やしていきます。
遠隔コンサル――「救急は子どもも大人も同じ」の視点
「相談できる相手を作る」ことの発展形として、座談会では遠隔コンサルの可能性も話題になりました。静岡での夜間救急を遠隔で担う取り組みは、その代表例です。小森医師は、この意義をこう見ています。
「救急は、子どもも大人も同じ領域だという視点があります。専門医が現地にいなくても、遠隔でつなげば判断は共有できる。集約化と地域アクセスのジレンマ(編集部注:第1回参照)を、テクノロジーで少し緩められる可能性はあると思っています」(小森医師)
もちろん、遠隔コンサルにも限界はあります。触診できない、雰囲気がわからない、対面のようには家族と話せない、などがすぐに上がる制約でしょう。ただ、「相談できない」状態と「遠隔でも相談できる」状態の間には、決定的な差があります。夜間に相談できる人が一人でもいるかどうかで、現地の医師の心理的負担は大きく変わります。この視点は、聖マリアンナ・モデルを他施設に広げていく際の、ひとつの現実的な道筋にもなります。すべての地域に専門医を配置することが不可能でも、相談できるネットワークを地理的に広げることは可能です。
NP育成の制度課題――「二重のハードル」
育成は、医師だけの話ではありません。倉光 真登香NP(小児外科診療看護師)は、日本のNP制度が抱える構造的な難しさを、実感を込めて指摘します。
「小児領域のNPを目指す看護師には、小児看護を経験してきた人と、成人看護を経験してきた人がいますが、どちらにもハードルがあります。小児看護の経験者は、NPになるために大学院に進学し、成人看護も含めて幅広く学ぶ必要があります。一方、成人看護の経験者は、NP資格を取得した後に、小児特有の知識や技術を新たに学ぶ必要があります。」(倉光NP)
さらに、日本のNP制度は国家資格ではなく、診療報酬上の評価もほぼゼロに近い状況です。北米では小児NP・新生児NPという専門区分が存在するのに対し、日本ではその制度的基盤が脆弱です。この構造が、NP育成の持続可能性を阻む大きな要因になっています。坂本医師は、心臓外科領域では診療報酬改定に向けた学会活動が進んでおり、早ければ2027年度頃、遅くとも2028年度から一定の動きが見込まれることを紹介します。制度の空白は少しずつ埋まりつつありますが、現場の実態と制度の整備には、まだ距離があります。小森医師は、今回の連載企画が「診療科偏在対策」のテーマのもとにあることに触れ、こう続けます。
「まさに、こうした相談相手をどう作るか、次世代をどう育成するかといった議論に加えて、NPのような専門職が同現場で活用されるかが診療科偏在対策ですね。NPにおいては制度と現場の間を埋めていく作業を、少しずつでも進めていかないといけない」(小森医師)
「モデルを広げる」ときに必要なこと
聖マリアンナ・モデルを他施設に広げていくとしたら、まず何から始めるべきか。過去の座談会記事における第2回・第3回で見てきたように、聖マリアンナのチームは、スペシャリストが集う中、交通整理役の存在、部署や診療科のつなぎ役、判断の共通認識といった複数の要素が噛み合って成立しています。大林医師は、現実的なモデルの広げ方の一案を次のように整理します。
「まず、多職種で集まって症例を話す場をつくることだと思います。カンファでなくてもよくて、まずはそうした場と関係を作る。そこから、じゃあこの症例はどうする、という具体的な相談が生まれていく」(大林医師)
顔が見える関係が、相談できる関係になり、相談できる関係が、共同で判断できる関係になり、聖マリアンナ・モデルを支える構造を段階的に作っていくという見方です。どの段階のどこから始めるかは、施設ごとに違ってよいでしょう。例えばすでに顔の見える関係がある施設は次の段階から始めればよい。ゼロから始める施設はまず「集まって話す」ことから。それぞれの現在地から始められることが、モデルの存在するメリットと言えます。
診療科の垣根を超えた医療者育成
聖マリアンナ・モデルは、また、「」にたどり着きます。集約化施設への派遣と大学病院での幅広い経験を組み合わせること。相談できる相手を意識的に増やしていくこと。遠隔コンサルで地理的な制約を緩めていくこと。制度の空白を埋める活動を続けること。そして、モデルを広げるときは、まず「集まって話す場」から始めること。こうした地道な打ち手の先に、「相談できる相手がいる」という状態が生まれ、この高難度領域を次世代へ継承していく土台になります。小森医師は、連載の締めくくりにあたって、こう話しました。
「なんとか、どうにか、『できる体制』を広めて、なんとかできる子は何とかしたい・していけるモデルを作りたいと思っているんですね。まだやれることはたくさんあります」(小森医師)
連載を終えて
4回にわたってお届けした「聖マリアンナ・モデル」は、ここで一区切りとなります。ただ、この領域はかつてない少子化の中、激動のさなかにあります。PAINs and GAINsは引き続き聖マリアンナ・モデルに光を当て、重症小児医療のナレッジを言語化し、開いていくことを続けます。ご協力いただいた聖マリアンナ医科大学病院の先生方、ありがとうございました。






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